小売業・サービス業こそ5Sが必要

〜 魅力ある店舗でお客様に親しまれるために 〜 

1.魅力ある小売業・サービス業とは何か?

(1)店の評価はお客様の入店第一歩で決まる

   整理・整頓が人にどのようなイメージを与えるのか、について面白い実験結果があります。 目の瞳孔の大きさがわかる装置を使って被験者にある人物を見てもらい、その時の瞳孔の大きさを測定。次にその人物の部屋の写真を見てもらい、再び視線を人物に戻す。その時瞳孔がどのように変化するのかを調べるというものです。ヒトの瞳孔は良いイメージを感じた時は開き、悪いと感じると収縮するといわれています。瞳孔が開くのは「嬉しい」「楽しい」「イメージが良い」場合で、収縮するのは「怒り」「無関心」「イメージが悪い」場合です。
 実験で整理・整頓のできていない部屋を被験者が見たとき、複数被験者全員の瞳孔が一様に収縮し、整理・整頓のできた部屋を見たときは瞳孔が開いたと報告されています。「目が点になる」とは“
驚きあきれ返った表情になる”ことをいいますがこの驚きが瞳孔の収縮に繋がっているのでしょうね。

名古屋文理短期大学 小俣謙二 助教授によれば、「人間は幼児の段階からまとまりのない空間を嫌い、無秩序な空間を好ましく思わない傾向がある。」とのこと。つまり整理・整頓を怠った空間は万人に嫌われてしまうということです。

お店に来店するお客様も同様で、店内に一歩足を踏み入れた瞬間に店内の整理・整頓の空気を五感(視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚)あるいは本質を直観的に感じとる“第六感”で感じ取ってしまいます。言い換えると、来店客がお店を評価するのは、入店の第一歩で決まってしまうことになります。“第一印象”を覆すことのむづかしさは周知のことでしょうから、この第一歩をいかによいものにするかが小売業・サービス業の最初の勝負どころということになります。 

(2)小売業の目指すところは顧客満足

  お店の目指すところは言わずもがなの“儲かって繁盛すること”。そのためには来店したお客様に満足していただいて、これを信用につなぎ、たくさんのお客様に来店いただかなくてはなりません。この〔ご来店〕⇒〔満足いただく〕⇒〔再来店いただく〕という良い循環が“儲かって繁盛すること”に繋がっていきます。これを実現するためには、お店が『顧客満足を提供すること』以外ありません。これはサービス業についてもまったく同様です。小売業やサービス業を営んでおられる経営者に企業理念についてお尋ねすると、ほとんどが顧客満足について言及しておられます。

(3)顧客満足のねらいはQCD

では、顧客満足を提供するためには具体的にどんな注意をしたらいいのでしょうか?重要なポイントを挙げるとすればQ(品質:Quality)、C(コスト:Cost)、D(納期:Delivery)の3つです。QCDは製造業の世界でもよく耳にしますが、小売業・サービス業でも同様に最重要ポイントであり、顧客満足を得るための基本事項なのです。「自信ある品質の商品・サービスを、可能な限り安く、しかもお客様の望むタイミングに提供する」ことなのです。牛丼の吉野家のキャッチコピー「うまい・やすい・はやい」は、まさにこのQCDを目指していることなのです。

では、このQCDを実現していくためには何をしたらいいのでしょうか?

2.S(ゴエス)って何だ?

(1)5Sは商売繁盛の羅針盤

  最近5S(ゴエス)がなぜか注目されるようになってきています。「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」の5つを実行することが5S活動なのですが、なぜ今5Sが必要なのでしょうか?

  ドイツの古い諺(ことわざ)に『人生の半分は整理・整頓に費やされている(Ordnung ist das halbe Leben)』があります。例えば、お店で商品を販売することは、整理・整頓を毎日繰り返していることかもしれません。倉庫から商品を取り出し、売り場にわかりやすく陳列し、陳列商品在庫が減ってくれば補充もしますし、レイアウトの変更も必要になります。このごくあたり前の日常業務に商売繁盛のポイントが隠されているのです。そしてこれを発見することが5S活動なのです。
(2)5Sが商売繁盛に役立つメカニズム

  お店での接客を中心に日常の販売活動を進めていますと、ついつい日常に追われてしまいますが顧客満足を促すための努力を怠っていても、日常業務はなぜか回ってしまいます。

しかし、いかにすばらしいお店であっても、オープンから何年も経つに従い、気づかない無駄がたくさん発生しています。ついつい日常の接客に追われていると、これらの無駄に気づきませんが、入店第一歩のお客様の五感あるいは第六感に敏感に感じ取られ、知らず知らずの顧客離れに繋がることにもなります。

  例えば、オープン当初の“さわやかな挨拶”“掃除の行き届いた店内”“動きやすい通路”“整然とわかりやすいレイアウト”がいつの間にか崩れ、疲れた接客や行き場の無い商品在庫が通路をふさぎ、店員に尋ねないと目的の商品を探せない状況を生じてしまう可能性があります。これらのなんでもない「アタリマエのこと」を怠っていると販売効率が低下していくことになります。

  このような状況を放置していると、お客様からのクレームとなってあらわれます。クレームは前述のQCDに絡んだ問題が中心ですが、その背景には「親身さに欠けた接客態度」や「従業員の挨拶態度」「整理・整頓の行き届いていない店内」などがおおもとの原因として必ず絡んでいます。これらの原因を日常業務の中でキチンと取り除いていれば、クレームの再発生に繋がることがないのですが、このアタリマエのことを実行できない“甘え”が最大の問題なのです。

  クレーム発生対策を放置しておくと、やがては知らず知らずの顧客離れに繋がり、慢性的な売上低下という財務指標にあらわれ、ようやく経営上の問題として真剣に検討することになるわけです。

(「図1.小売業・サービス業における5Sを含む4つの機能層」参照)

 

  商売は“あきない(飽きない)”ともいわれますが、5Sは飽きずにアタリマエのことを実行できない“甘え”があることを知らせてくれるシグナルでもあるのです。5Sを導入すればクレームが発生してから対策の手を打つ「受け身の経営」から、5Sのシグナルを察知して事前に対策の手を打つ「積極的な経営」への転換が容易に出来るのです。

3.5Sとは何か?

  5Sとは「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」を実行することです。日本で生まれた言葉でありながら、すでに海外でも使われています。誰でも知っている言葉ばかりですが、その意味するところは一般的な意味とは少し違います。本来実施すべきアタリマエを怠らずキチンと実施するためのポイントが5つの単語に凝縮されているからです。5Sが出来ていない状況は容易に想像できるでしょうから、表1に 5Sが出来ているお店はどのような姿なのかを示します。この姿を目指して5S活動を推進していくことになります。

 5Sの視点で店舗を点検する場合のチェックリストを 「表2.店舗チェックリスト(例)」

 に掲載します。

4.「店長と従業員が団結した酒販店」での5S事例

  小売業において5Sを導入し、成果を挙げている事例を紹介しましょう。紹介するのは正社員3名、アルバイト3名(土日を中心)で運営するオープンして5年目を迎えた酒販店です。(お酒のほかにおつまみなどを含む食品の販売も行っています。)

 店舗面積264u(80坪)、夏場のビールシーズンや年末の繁忙期による変動はありますが5Sをはじめる前(1年前)の平均月商2,800万円程度。酒類は商品重量が重く置き場所を取ることが悩みでもあります。

5S活動を開始した時点での店長の感じる問題点は、季節ごとの洋酒やワインや日本酒などの売上の季節変動があり、都度見込み発注を行った結果、商品が店舗に置ききれ  ずバックヤードに保管(押し込む)と言った状態が続き、店の通路にも商品が並び、店内がグチャグチャになっていることでした。

(1)   先ずは『赤札作戦』で店内のアカ出し実施

  要らないモノを誰の目にもわかるようにすることが「赤札作戦」の目的です。閉店後 のレジを締めた後、店内とバックヤードを対象に赤札作成を実施して要るものと要らないものを区別しました。赤札を貼る対象は「必ず売れる定番商品」と「季節商品」以外の商品としました。とりわけバックヤードはメーカーのサンプル品やパンフレット、空き箱、パレットなどほこりを被ったものも多く、不要品の多さに驚きながら作業を実施しました。

(2)   店舗・バックヤードの整理整頓を実施

  赤札貼付後に、これらを一ヶ所にまとめ、@廃棄商品 Aマークダウンして通常販売できる商品 Bセール時のワゴンセールに使える商品 C見込み発注による過剰在庫商品などに分類し、陳列場所の再検討をしました。この段階でいかに多くの不要品に囲まれていたか、また探しても見つからなかった商品が大量に出るという驚きの場面もありました。

(3)   店舗レイアウトの見直しを実施(お客様中心の店舗に)

  赤札作戦の結果不要品が撤去され、生じたスペースが従業員のアイデアを引き出すきっかけになりました。「お客様の目から見て、買いやすい店舗レイアウトにするにはどうしたらいいのか」についての思いは従業員のそれぞれが普段から抱いていたと見えて、いろいろな意見が出ました。従来から10坪程あったバックヤードを3坪ほどに狭め、バックヤードの大半を店舗に含めて使うことにしました。また客導線をシンプルにし、捜しやすく買い物のしやすい売り場にするアイデアも出て、これに合わせて新たになった店舗のレイアウト図をパソコンで作成し、お客様にわかりやすく店内掲示しました。

(4)   お客様でも従業員でも、誰でもわかる「表示」の整理

  5年前のオープン当時から、洋酒・日本酒・ワイン・食品類の売り場は固定的になっていましたが、各種什器を含む全ての場所を見直し、お客様から見つけやすいように表示をつける工夫をしました。

(5)目に見えて成果があらわれた

  このような5S活動を通じて、「オープン5年間に溜まった店内の垢が取り除かれた」というのが店長の第一声でしたが、何よりアルバイトも含めて全員で目的を共有したことがその後の店内コミュニケーションに大きな役割を果たすことになりました。また定量的な成果としても大きく、当初の在庫金額が5,000万円もあったのに、5S実施後には、半分の2,500万円となったことです。売場面積の拡大も影響してか、売上も平均月商3,200万円にまで伸びています。尚、定量的な数字で評価の出来る段階ではありませんがクレームの発生もほとんど無くなり、お客様からの評価も高まっていることを店長自ら感じているとのことです。

 

 

5.5S定着方法

5S活動の特徴は

@導入すればすぐに成果が出る

A5S活動を継続することがむづかしい

の2点です。現在多くの企業で5S活動が推進されていますが、やはり共通の悩みは「いかにして継続するか」です。

この悩みの解決方法として次の2点についてお話します。

(1)活動を“公言”する

   5Sが継続できない最大の原因は、“甘え”の心にあります。「5Sもこのくらいできればいいや」とか「自分がやらなくても誰かがやってくれるさ」といった思いが、継続を阻害してしまいます。

   この思いを“改革”するには公言することです。例えば「当店では整理・整頓・清掃・清潔・しつけの5Sの徹底を図り、お客様に快適なお買い物を楽しんで頂きたいと努力しています。どうかお気づきの点をご指摘ください。」と掲示したり、「5S推進の店」をチラシ・名刺・ホームページ等で公言します。有言実行の積極的経営は5S活動の継続の大きな柱となります。

(2)PDCAを回すこと

  5Sの目指すところは、目標とする経営理念(お店が目指す企業ミッションや規範)に基づいて、「当店はこんなお店になるんだ!」のゴールに着実に歩を進めていくことです。このためには事業計画を立て、これに従った経営活動を行い、成果をチェックし、改善できる個所があれば積極的に是正していくP(Plan)−D(Do)−C(Check)−A(Act)のマネジメントサイクルを回していくことが必須です。月ロケットが目的地点に到達するためにとる活動と本質的には同じ活動なのです。

  しかし5Sの継続同様にP-D-C-Aを回すこともむづかしい面を持っています。この解決の方法のひとつに品質ISOや環境ISOなどを導入する方法もあります。ISOという国際標準を導入し、定期的に行われる外部審査員による査察(サーベランス)を通じて厳しく指摘してもらう方法です。

  今年の年末に制定されるとわれるISO22000は、食品関連の広範囲な企業が対象の規格ですから、多くの小売業・サービス業も対象と考えられます。(品質ISO(ISO9000)とHACCPの統合版)

 図2に効果的な5Sの進め方の図を紹介します。

 

5Sとは「アタリマエのことをキチンと実行する」という実にシンプルな考え方ですが、経営のポイントを捉え、従業員全員参加で実施出来る導入しやすい手法です。是非とも導入・活用し、大きな成果をあげていただきたいと期待しています。

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