人事制度改革で社員を活かす

 テキスト ボックス: 連載第9回
  人事制度改革で社員を活かす
 
      〜成功する企業・うまくいかない企業〜
 
                          小 澤 正 幸
            叶ッ和ビジネスサポート コンサルティング部部長
                          中小企業診断士
                       m-ozawa@seiwabs.co.jp

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1.成果主義をめぐって

 人事制度を見直す動きは、企業規模・業種を問わず多くの企業で進められています。これは従来の硬直的な人事制度(年功序列による処遇、一度上がった賃金は下げにくい等)のもたらす弊害が昨今の厳しい経営環境の中で苦闘する企業の収益を圧迫しているからです。この状況を打開するため多くの企業では”成果主義”を標榜した人事制度を導入しようとしています。

 “成果主義”は本来「成果を上げた社員(企業業績に貢献した社員)を高く評価・処遇し、一方 思わしい成果を上げられなかった社員には降給も含めた適正な処遇を行う」ことにより社員の活性化を図り企業業績を伸展させることを意図しています。

 しかし最近、新聞や雑誌等で”成果主義”の弊害や失敗した事例等が相次いで取り上げられ、導入を躊躇する企業も見受けられるようになって来ました。“成果主義”の導入がうまくいかない最大の要因は”評価”にあります。「何を、どの程度やったら、どう評価され、どう処遇されるのか」がハッキリしていないからです。 

 @「何を」とは、仕事の目標のことです。この目標を年度初に明確に設定して上司と社員個々が確認しあい、目標を達成するためにはどうやって進めていくかを具体的に考えることが不可欠です。

 A「どの程度」とは、目標の達成度です。@で設定した目標の達成水準を定義しておくことです。数量で表わせる目標は数量で、表わしにくい目標については「達成のイメージ」を確認しあうことが必要です。

 B「どう評価」とは、目標達成水準の高低に応じた評価のレベルを明確に示しておくことです。

 C「どう処遇」とは、評価結果に応じた昇給・昇格等のルールを決めて公開しておくことです。

  成果主義“を導入してもうまく機能していない企業は、この@〜Cのプロセスが曖昧なまま見切り発車してしまったところが多いようです。

  

 

 

 

 

 

 2.中小企業にこそ必要な真の成果主義

 大企業や中堅企業で新しい人事制度を導入する場合、人事部門の専門スタッフが中心となって新制度の設計を行うことが一般的です。通常、人事部門のスタッフを中心に業務部門を代表する社員がプロジェクト・メンバーとして加わって進められていきます。そのため、どうしても制度の枠組みや部門間のバランスなどを意識しすぎて、思い切った制度を実現しにくいのが実情ではないでしょうか。

  一方、中小企業では限られた社員で日常業務を動かしながら制度作りを進めざるを得ないため、なかなか着手できなかったり、途中で挫折してしまうことも少なくありません。

 しかし、本来の”成果主義”は一人一人の社員の仕事への取り組み度合が企業業績により鮮明に反映される中小企業にこそ求められるものではないでしょうか? いわば、少数の精鋭を作り上げる手段として”成果主義”の考え方を活かすことが中小企業の業績を伸ばす鍵になると思います。

 今回は、私達がコンサルタントとしてお手伝いをしたいくつかの中小企業の人事制度改革の事例から「新しい人事制度が所期の目的どおり機能して業績改善に結びついている企業」と、反対に「なかなかうまく導入できない企業」の取り組みの違いを記してみたいと思います。また併せて、最近私達が模索している中小企業に適した成果主義(社員の”成長”を成果としてとらえる考え方)についてご紹介いたします。

  

 

  

 

 

 

 

3.人事制度改革で社員を活かす

(1)二つの意味

 “社員を活かす”には、二つの意味があります。一つは、「新しい人事制度を作り上げるプロセスを通じて”社員を活かす”」ことです。もう一つは、「新しい人事制度そのものの中に”社員を活かす”仕組みをビルトインすること」です。 

(2)中堅・若手社員を中核としたプロジェクトの運営

 プロジェクト・チームが活発に機能している企業の共通項は、メンバーの中核として中堅社員や若手社員が参加していることです。

 建築資材販売のY社(東京都・社員数40名)では、プロジェクト・リーダーに35歳の中堅社員を任命しました。彼は人事に関しては全く経験がありませんでした。しかし、検討が始まると自ら積極的に書籍を読んだり、セミナーに参加したりして人事制度に関する知識を吸収していきました。また、自発的に同僚や若手の社員と討論をして自社の人事制度の向かうべき方向を提言し、この方向に沿って制度を設計していきました。

 このように、新しい制度の設計のプロセスに、これから中核となるべき社員の考え方が反映されて作り上げられたため、社員の理解度・納得度も高く、新しい制度は順調に動き始めています。

 また、機械部品商社のM社(東京都・社員数150名)では、プロジェクト・リーダーは人事担当の取締役が勤めましたが、プロジェクト・メンバーは20歳代〜30歳代の若手・中堅社員から男女5名を選抜して進めていきました。第1回目の会合には社長が参加して、人事制度改革への思いやメンバー選抜の経緯と期待を語られたこともあり、メンバーの意欲も高まり自らの課題としてレベルの高い討議が続けられました。新制度のスタートに際しては、プロジェクト・メンバーが自分の属する部門への説明役も行い、新制度の浸透に努めました。

 このように会社の将来を左右するような重要な「機会」に中堅・若手社員を「参画」させることは社員の意識を高め、能力の成長をもたらすと共に出来上がった制度が他社のまねごとや借り物でなく自社に適した制度として受け入れられる素地を作ることに極めて有効です。

 なお、中堅・若手社員主体で進めていく場合、管理職クラスの社員に主旨や進捗状況等を定期的に報告し、討議してもらう場を設けておくことが不可欠です。 

 

 

 

 


 

(1)社員を活かすトップの意識

 前述の2社では、いずれもトップが社員の成長を願い、新しい可能性をひき出す機会としてプロジェクト・メンバーという「役割」を与えています。

 一方、人事制度改革を単に人件費削減の手段とだけ考えているトップの場合は、人事部門を中心に管理職だけでプロジェクト・チームを編成することが多くなります。密室で検討が進められ、充分な説明もないまま強引に新制度が導入されてしまいます。こうなると、ほとんどの社員の”やる気”は萎え、結果として会社の業績も低下していきます。本当に良い仕事をしている社員と、仕事をしているフリをしている社員の見究めも出来ず、イエスマンと茶坊主が跋扈する会社になってしまいます。

(人事制度改革プロジェクトが成功する企業と、うまくいかない企業の特徴は図表1をご参照下さい。)

 

 (図表1)

   人事制度改革プロジェクトの成功/失敗を決める10のポイント

    ポイント

   成功する企業

    失敗する企業

1.トップの意識

・社員の”やる気”を高め、会社も社員も共に成長したい。

・人件費の削減さえ出来れば良い。

2.トップの関わり

・改革の目的、必要性を明確に 説明

・節目の会合には自ら参加し  て方向付けを確認

・メンバーにまかせっきり

・指示があいまい

3.経営理念・経営

  方針との整合性

・常に整合性を意識して検討

・人事制度の枠組み(形)だけの検討

4.人事諸制度の   相互連動性

・各制度の連動性の確保につ いて常に意識してフィードバック

・それぞれの制度が独立して作られ連動していない。

5.プロジェクト・

  メンバーの選出

・人材育成も考慮して若手人材も選出

 

・上級管理職中心または人事部門だけで編成

6.プロジェクト・

  リーダー

・将来の幹部候補となるべき 人材を抜擢

・現在のポストで決定 (たとえば人事部長)

7.プロジェクト・

  メンバーの評価

・人事評価面で加点評価

・考慮していない

8・プロジェクト・

  メンバーの意欲

・積極的、自発的な関わり

・強い責任感

・やらされ感、徒労感

・低い参加意識

9.プロジェクトの運営

・決められたスケジュールを厳守

・ほとんど欠席者はいない。 

・現業にかまけて安易に延期するため遅れ勝ちになる。

・欠席が多い。

10.プロジェクト・チームの自立性

・定例ミーティング以外の時でも自発的に検討している。

・決まったこと、決まっていないことをメンバーがハッキリ認識している。

・メンバーの意識がバラバラなため自発的な活動は行われない。

 

(以上は企業診断2月号からの抜粋です。「企業診断」本誌をご覧ください。)

 

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