運送業からホテル業への転換に成功

 

テキスト ボックス: 連載 チャンスを活かせ!−よみがえる中小企業  第8回
 
運送業からホテル業への転換に成功
〜 若き社長の苦悩と決断が成功に繋がった 〜
田村 一男
(株)ノードコム
中小企業診断士 ITコーディネータ
 
 
 

 

 

 

 

 

 

今回取り上げる事例は,9年前(1994年),運送業からホテル業(ビジネスホテル)に転換した若き二代目社長の話である。経験の浅い業種に転換して成功した要因は,

@    ホテル経営を熟知した人材の登用とノウハウの修得,

A    取引銀行や商工会議所等の機関から受けた経営指導の即決と実践,

B    社長の人的ネットワークの活用があった。 

以下,ホテル業へ転換した経緯,ホテル業を取り巻く環境,および当ホテルの課題についてご紹介したい。 

1)都市化の進展がホテル業への転換を促した

ホテルパストラールの概要

事例企業のホテルパストラール(濱田茂社長)は,横浜市の西北部,JR横浜線鴨居駅から徒歩2分の所にある。高台に登れば,新横浜地区のビル群とサッカーのワールドカップが開催された横浜国際総合競技場を間近に望むことができる。

近隣には,NEC,パナソニックモバイルコミュニケーションズなど,大手企業の技術開発拠点があり,当ホテルを利用する技術者やビジネス客が多い。図表1は,ホテルパストラールの概要である。 

テキスト ボックス: 図表1 ホテルパストラールの概要
客 室 数:60室
売 上 高:1億6,000万円(2002年)
従 業 員:社員4名(社長を含む)パート20名
付帯設備:レストラン(50席),多目的ホール
(最大50席,宴会場と研修室に使用)
URL  :http://www.hotelpastorale.co.jp

 

 

 

 

 

 

商社マンからホテルの経営者へ

当ホテルのある横浜市の西北部(緑区,青葉区,都筑区)は,1970年代に入り東急電鉄の田園都市開発や横浜市が進めた港北ニュータウン等,宅地開発で,急速に人口が伸張した地域である。

先代の社長は,当ホテルの所在地で長年,運送業を営んでいた。しかし,立地が駅前の商業地域であるため,大型車の出入り規制で営業を続けることが難しくなり,営業拠点の移転と跡地利用の決断に迫られていた。 

当時,現社長は商社マン。サラリーマンを続けるか,それとも,家業を継ぐべきか悩んだ末,「跡地をホテルに転換する」という結論になったのである。その後,知人の助言で,シティホテルでホテルの実務を,一から研修に励み,当ホテルの経営に携わることになる。ホテルの名前は,立地場所のイメージからドイツ語で「田園」を意味する「パストラール(Pastorale )」と名付けた。 

(2)ホテルの新規オープンが続いている

外資系ホテルの進出とビジネスホテル

近年,ホテル業界の話題は,@六本木ヒルズ(ホテル名:グランドハイアット東京)など,都心の再開発に合わせた外資系ホテルの進出,A東横インに代表される低価格志向型ビジネスホテルの新規オープンの増加(多店舗展開)である。 

 図表2は,ホテルの軒数と客室数の推移(1996年から2001年まで)を示す。2001年の軒数は,8,363軒(12.8%増),客室数は63万8千室(14.6%増)である。なお,( )内は,1996年を100とした場合の伸び率を示す。

  新規オープンの増加の背景には,オフィスの2003年問題とも関連するが,土地の資産運用の問題が絡んでいる。都心に外資系ホテルが進出する場合はデベロッパーが開発した施設を,ビジネスホテルが新規オープンをする場合は土地所有者が建設した施設を,20〜30年という長期な期間で借り上げて,ホテルを営業するのが一般的である。ホテル側が土地と施設を自前で持っているのではない。ホテル側は,ホテルの運営ノウハウがあれば,新規オープンができるのである。

 横浜市のホテル事情

 次に,当ホテルがある横浜市のホテル事情をみてみたい。図表3に,ホテルの軒数と客室数の伸び率を地域別(全国,東京都,横浜市)に分けて示した。横浜市のホテルの伸び率は,軒数(21.2%増),客室数(22.8%増)とも,全国の伸び率を大きく引き離している。 

横浜市内でホテルが新規オープンしている地区をみると,シティーホテル(横浜ロイヤルパークホテルやパンパシフィックホテル横浜など)は,「みなとみらい地区」に,ビジネスホテル(東横インなど)は,関内・桜木町地区(ビジネス街)と新横浜地区に集中している。 

当ホテルと競合するホテル

 新横浜地区には,シティーホテル(プリンスホテルやフジビューホテルなど)とビジネスホテル(東横インやR&Bホテルなど)等,6企業以上が進出している。当ホテルともろに競合関係にある東横インは,新横浜地区に本館と新館の2棟を持ち,合わせた客室数は314室にも達する。

 (3)当ホテルの経営課題を分析する

社長と筆者は,共に横浜商工会議所の会員である。社長とは,同商工会議所みどり支部(管轄:緑・青葉・都筑の3区,人口62万人)の「若手経営者交流会」を通して面識を持つようになった。 

この会は,若手経営者の会員を対象にして,会員の相互の親睦と経営能力の向上を目的としている。社長は,この会の発足当初からのメンバーで,この会をネットワークづくりの場の1つであると考えている。 

このようなことから,筆者が所属するSMILE(Strategic Management Innovation for LEaders )診断士の会(独立診断士および独立志向の診断士を中心とした,25名からなる研究会組織)が,当ホテルの経営課題を分析する機会を得た。 以下に,経営戦略立案の策定プロセスに沿って,当ホテルを分析し,当ホテルの経営課題とその取り組みについて述べてみたい。

SWOTを分析する

図表4に,当ホテルのSWOT分析の結果と重要成功要因(CSF)をまとめた。当ホテルの強み(S)の代表的なものを3つご紹介したい。

1つは,年間を通して客室稼働率が80%(全国平均は75%,ビジネスホテルの場合は70%に達すれば良い方といわれている)を維持している。維持できる主因は,法人顧客の上位2社で,総顧客数の約6割を占め,安定した固定客を持っている。

 

 (以上は企業診断9月号からの抜粋です。「企業診断」本誌をご覧ください。)

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