町工場の挑戦〜新製品開発物語

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■ はじめに 

下請け製造業が、新製品を開発しようと思っても、なかなか、事業として軌道にのせるまでにはいたらない。自社製品開発に取り組もうと思いたったとしても何をしていいかわからない。そこで、今回の連載では、地方の町工場が、新製品開発に取り組み、数億円の事業に成長する可能性をつかんだ現場をリポートとし、新製品開発成功のポイントを模索してみたい。 

1. ビジネスチャンスをさがしに

宝泉製作所(http://www.the-sensui.com)は、群馬県太田市のステンレス加工を営む町工場。創業は昭和34年、従業員50名、大手メーカーの下請企業。

平成10年から新製品の開発を開始。現会長の石川氏は65歳のとき、社長を30代の息子に譲ったものの、何かできないかと模索していた。日本DIY協会の主催する視察旅行へ参加。3回アメリカへでかけた。そこで、動物のかたちをした蛇口に出会う。これを販売してみようと10個仕入れ、従業員や知人にみせると「かわいい」とすぐ売れてしまった。そこで、500個仕入れてジャパンガーデニングショーで販売してみると完売。次に1000個仕入れて、展示会で販売してみるとまたまた完売。人気商品に育つ可能性を見いだした。

  本格的に販売に乗り出そうと考えたとき、アメリカの製造元が倒産。困ったことになった、となかばあきらめているところへ、展示会をみにきていた東京の業者が、一緒につくろうと声をかけてきた。お互い頑張ろうと製品開発物語が始まった。 

 石川会長は、新製品開発に一人で取り組むことになる。まず、デザインをどうしようか。知人にデザイナーはいないかと探し始める。知人の知人が、佐渡の彫金デザイナーであった。この人しかいないとデザインを依頼。年に2個しかデザインしないよと言われるが、頼むしかなかった。できたデザインは、かわいい小鳥であった。 

 早速、提携企業へ鋳造を依頼。初めての製品が完成したのは、1年後であった。並行して水栓柱の開発も始める。これまで、水栓柱といえば、コンクリートが主であった。そこでステンレス技術を活かし、ステンレスの高級な水栓柱を開発した。 

コンクリートの水栓柱の価格は、約3000円から6000円。ステンレスの水栓柱は、3万円から5万円する高級品であった。これまでにないステンレスの水栓柱は、石川会長にとっては自信作でもあった。群馬県のグッドデザイン賞に申請するも、落選。理由をたずねると「こんな高級な水栓柱に何の変哲もない蛇口がついてたのでは価値がさがるよ」と言われた。悔しかった。蛇口の開発に取り組んでいた会長は、高級な蛇口の開発の必要性を再認識し、さらに力をいれようと心に誓った。 

■ 展示会ブース演出の大切さ 

 蛇口が完成し、早速、ガーデニングショーに出展しお客様を待った。他のブースには、お客様があふれているが、当社のブースにはお客様の足がむかなかった。何が悪いのか。製造業の部品を展示するように蛇口を並べていた。そこへ埼玉の園芸業者がやってきて、「こんなブースじゃ人は呼べないよ」となかばあきれ顔で言い放った。すかさず、石川会長は、「だったら、うちのブースをつくってくれませんか」とその場で頭を下げた。 

 次の展示会では、ブースを庭にみたて、噴水や花畑のなかにかわいい小鳥の蛇口が並んだ。「かわいい!!」と女性客があふれかえった。花屋やガーデニングをてがけるお店からの注文があいついだ。

 園芸業者にブースを任せるだけでなく、会長自身、展示会のブースづくりの研修にでかけた。そこで「何だろう?」と思わせる「アイキャッチ」が大切だと知る。また、消費者が商品を使用した際のイメージを提供しなければならないことも重要だとわかった。 

2. 町の塗装屋の挑戦  

高橋塗装工業所(http://www.takahashitoso.co.jp)は、群馬県新田郡新田町の小さな塗装屋。昭和43年現社長の父親が創業した。創業当時は、溶剤塗装をてがけていたが、昭和50年から他社との差別化を図りたいと粉体塗装に転換した。粉体塗装とは、粉末の塗料を電気でふきつける。シンナーなどの有機溶剤をつかわないので、無公害塗装であり、また、溶剤塗装よりも厚みがでることから耐久性にもすぐれているという。

昭和58年に現社長である息子(当時24歳)が入社した。社長は、大学院でフランス文学を研究し、ハードロックのバンドでは、ヴォーカルをつとめていた。塗装業については、何もしらなかった。 

 

■ 営業のきっかけをつくりたい

入社当時の取引先は15社、従業員25名、年商2億5千万円の規模であった。これまで父親の人脈から仕事をしてきたが、息子は特徴を出し、取引先を拡大しようと動き出した。どうせ特徴を出すなら、インパクトのあるものがいいと考えた。「CS」(顧客満足)という言葉が流行していたが、「CS」では、満足すれば忘れられてしまうと思った。 

おなかがすいているお客は、食事をすれば、満足してしまうのではないか?「顧客満足」よりも「すごいね」って思ってもらえる「顧客感動」をあたえられることはできないか?そこで、社長が考えついたものは、「1個から、飛び込みの仕事も、その場で塗装する」ことだった。「1個でも頼まれたからしかたなく塗装する」という気持ちではなく、社員全員が「1個でも思い出してくれてありがとう」と思えたら、お客様に感動を与えられるのではないだろうか。1個でも量産価格を実現できれば、さらに感動を与えられるだろう。 

■ 生産性の向上

飛び込みの仕事にすぐ対応するため、そして1個でも量産価格を実現するため、生産現場の生産性向上が不可欠であった。そこで、社長は、塗装ラインのコンベヤの速度を倍にすることを考えた。現場の社員が少しずつ速度に慣れるよう1週間で1分あたり10cm速度を速めた。1分1.5mから1.8mの速度から1分3.7mでも、塗装量をかえることなく対応できるようになった。そして、どんな材料であっても、同じ速度で塗装することを実現した。現場をみた取引先が「業界では珍しい」と驚いた。生産現場の改善活動では厳しい目をもつ自動車関連の取引先から、「作業者がどれも20秒で塗装している。すごいな」と言われ、最重要保安部品も安心して依頼できると信用力を高めた。

 業者向けに開始したサービスではあったが、平成11年に「ぬりかえ工房」というネーミングで消費者向けにサービスを始める。これまで「車いす」や「ジッポライター」「バイク」などオリジナルのものを持ちたいというこだわりのお客様から注文をうけている。 

■ 自社製品開発にチャレンジ

 もともと、高橋社長は、製品開発をすることが好きだったともいえる。しかし、これまでに開発した「蓄光・反射シール」(光に反射するシートと光を蓄えるインクを使ったシール)やオーダーメード型のプランターボックスは、必ずしも売れ行き好調といえなかった。

平成13年12月、マイナスイオンが発生するエアコンが発売された。高橋社長は、「すぐエアコンを買い換えられる人ってどのくらいいるのだろうか?」と疑問に思った。「マイナスイオンの塗料があれば、手軽だろうな」と感じた。そして「マイナスイオン」って何だろう?と調べ始めた。

 「消臭効果があること」「癒し効果があると話題になっていること」などを知り、これを塗料にいれることはできないかと塗料メーカーと提携し、マイナスイオンが発生する塗料を開発する。平成14年に入り塗料が完成。同社は、病院のベッドの塗装をしていたこともあり、「ズバリの商品だ」と高橋社長は思った。取引先に営業してみたが、「何かあったらな」と良い反応はなかった。だったら自分で製品を作ればいいとエアコンの吹き出し口に後付けできるシールやクリップの開発を開始。塗料を購入し、地元の工場に簡易型でクリップを曲げてもらい、製品自体は1ヶ月半で完成した。塗料代5万円、外注費10万円、特許申請料の投資であった。商品として販売開始にあたっては、パンフレット代20万円がかかった。 

■ お客様の声をきけ

マイナスイオンクリップを製品化するにあたり、高橋社長は知人以外の人からの声を大切にした。どうしても友人、知人は、「いいね」と気をつかってくれると思ったからだ。取引先の掃除のおばさんや会社の前をたまたま歩いていた近所のおばさんなど、1ヶ月で100人以上の声を集めようと決めた。

「こういう商品があったら欲しいですか?」「いくらだったら買いますか?」など確認した。そこで、「あまり安いと信じられないこと」や「2000円から3000円程度なら買えること」など消費者の生の声が集まった。

 ■ マイナスイオンクリップ発売

平成14年7月にマイナスイオンクリップを発売開始。同製品は、自動車のエアコンの吹き出し口に取り付ける40×10×3mm大のクリップ。サビに強いステンレスにマイナスイオン塗料をぬったもの。20個入り。

まずは、ガソリンスタンドに販売を委託。1ヶ月で400袋以上が売れた。全体では、発売開始から半年で6000袋以上が売れた。新聞記事にとりあげられたくらいで、特に宣伝、営業はしていない。

新聞記事をみたと大手自動車メーカーからの引き合いがいくつもあった。専属でやって欲しいという業者もいた。大手自動車メーカーの排煙室の悪臭がとれるかどうか実験。効果が確認され、今年の秋から、新車のオプションカタログに掲載されることが決定した。都内のホテルからも、効果があるかどうか試させくれと話があった。1年後、全室(80室)に採用が決定。ゆっくりと着実に売上を伸ばしている。

 (以上は企業診断12月号からの抜粋です。「企業診断」本誌では『町工場の新製品開発のポイント』を纏めています。詳しくは全国書店で本紙をご覧ください。) 

 

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