〜「企業成長の隠れたひみつ」〜 

連載 チャンスを活かせ! − よみがえる中小企業 − 第3回

 

 

  

渋野 雅告(しぶの まさつぐ)

株式会社リコー 1to1プロジェクトリーダー

中小企業診断士(協会正会員・東京支部)

E-mail:masatsugu.shibuno@nts.ricoh.co.jp

 

1.顧客との関係作りを目指して

店舗を営む小売業にとってDM(ダイレクトメール)は,チラシと並ぶ代表的なプロモーション・ツールです。この身近なDMに日本的な独自の工夫を凝らせば,多大な成果をもたらします。

反応率の大幅アップ,売上向上は喜ばしい収穫です。しかしそれにも増して重要なのは,“1to1マーケティング実践によって顧客志向が高まる”という意識改革効果なのです。

 

(1) 増え続ける枚数・低下する反応率

DM市場は郵便料金だけで3654億円(H13)。デザインや印刷代を入れるとその数倍の規模があります。枚数も42億枚(H13,手紙25億枚,ハガキ17億枚)で,ハガキDMは2桁成長しています。

平均的反応率は14.5%(郵政研究所)ですが,枚数増加と反比例して,次第に減少傾向にあります。

 

(2) 消費者の変化を市場機会として捉える

 消費者の意識は変化しています。欲求は,安価で高品質だけにとどまりません。美や健康・安全・若々しさにこだわりたい,自分の拠り所がほしい,保護してもらいたい,情報過多で指針がほしい,自分だけの特別なもてなしに貪欲,広告よりも友人知人の口コミを信用する,自ら組織化し仲間を募る,など多岐にわたっています。また,外部環境も市場規模の縮小,前倒し・直近・短命の消費傾向,IT化の動きの進展など,企業の変革を促します。

こういった状況における戦略の方向性は,�商品の動きをリアルタイムに捉えて効率化,�「個」の顧客の心をつかんで囲い込む,の2つの選択肢に絞られてきます。

 今回は,そのうち後者のアプロ−チによる課題解決事例を紹介します。

 

(3)「個客」一人ひとりにあったDMを

通常1000枚のDMと言えば,1通り×1,000枚のマスDMのことです。しかし,顧客の心を掴めないので,結果として読まずに捨てられてしまうものがほとんどです。

求められるのは,1,000通り×1枚の1to1のDMです。適切な対象者に対し,適切なタイミングで,適切なコンテンツおよびデザインで送付すれば,反応率は格段に向上します。

その際,問題になるのは,必ずしも経営資源ではありません。図表1は,1to1マーケティング実践にかかわる要素を4層で表していますが,もっとも不足しているのは,むしろヒトの部分。つまりマーケティングの戦略と実践にかかわるノウハウなのです。

  

 

 

2.S店での事例から

 では,筆者の請け負ったS店の事例から,1to1マーケティングの取り組みについて概観していきましょう。

 S店は20代後半のOLをターゲットとするレディス・ファッション専門店です。受託販売形態でアルバイトを入れて本店は10名体制,年商2億円弱(会員売上のみ)規模。東京都中央区の本店の他に横浜市にも店舗があります。平均的な客単価は17,000円程度で,接客行為が有効です。

 

(1) 勝ち組と負け組みに二極化する業界

 国内のアパレル小売市場規模は9兆6715億円(日本アパレル産業協会・2000年度)。3年間で△5.1%と縮小傾向にあるものの,依然として巨大市場であることに間違いありません。

企業も勝ち組みと負け組みに二極化しています。SPA(製造小売アパレル)やセレクトショップなどは小粒でも元気なところが多く,インポート・ブランド店の収益力は圧倒的です。一方,従来型の品揃えタイプの専門店の多くはジリ貧傾向にあります。

 

(2) 顧客起点の経営理念

 S店の経営トップの考えは,本来は競合しないのが専門店なのだ,というものです。「お客をマスとして捉えることがそもそもの間違いのもとだ。お店には得意の客があり,得意の商品があり,得意技があるはずだ」,と。

自社をオンリーワンの存在にすることで値引きに頼らない販売力を育てたいという考えは,店舗コンセプトなどと合致すれば魅力的です。

 

(3) ヒヤリングでわかったこと

 こうした考えを受けて,S店の現場販売員の声を聞いたところ,次のようなことがわかりました。

・上得意の顧客をロイヤルと呼んでいて,シークレットセールDMを発送している。

・よく来店する顧客の顔と名前はだいたいわかるし,買上商品も覚えている。

・「顧客の声カード」を販売員は携帯していて,気付いた点をメモして回収する仕組みがある。

・プロパー価格で,まとめ買いをする顧客がいる。

・セール顧客は,必ずしもロイヤルとして扱っていない。

 

 

(4) ITはツール

本格的な1to1マーケティング活動をリアルタイムに多様な局面で実践しようとするなら,システムは不可欠です。しかし,S社はすぐにIT投資を行える状況にありませんでした。

 ITは手段であって目的ではありません。一流の包丁や鍋を買ってきても一流の料理は作れないように,使い方,やり方こそ重要です。

S店では会員カードによって顧客ID付販売データが存在していました。そこでデータを当方が預かって分析作業を行い,マーケティング計画を立案し,DMデザイン,印刷,店舗運営への関与まで一貫した業務プロセスを請け負うことにしたのです。コンサルティングと業務機能代行サービスです。

 

(5) ツールよりも大切なこと

とある宝飾店の話。アクセサリを買った顧客をデータベースから抽出して,セールDMを送付しました。すると,同じものが安くなったことを知らされて,顧客は怒りました。また,買上御礼DMを受け取った中年男性からは,クレームが来ました。夫人への贈り物ではなかったのでしょう。このように,実地に即した方法論がまずありきです。

販売スタッフの80%はCRM導入が失敗だったという調査結果(米ガートナー)があります。確かに,システム導入だけで解決できる問題ではありません。意識改革,実行力を伴って初めて効果をもたらすのが1to1マーケティングの世界です。

 

 

※以下本文省略  『企業診断7月号』でお楽しみください。

 

 

  

 

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